あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

花鳥の使の意

「花鳥の使」は古今和歌集真名序に見える言葉である。「(和歌は)…好色の家には、此れを以ちて花鳥の使となし、乞食の客は、此れを以ちて活計のなかだちとなすことあるに至る。故に半ばは婦人のたすけとなり、ますらをの前に進めがたし」。 『詩人・菅原道…

両極の一方

対照的な存在が好きで、歌でもよく詠んでいる。両極を眺め、相違点を味わう過程が心地よい。歌における自らの探究を考えるときも同様である。一方は古歌、もう一方は現代に向かった歌であり、両極を見る。 美の観点から、古歌における追及は焦点が定まったと…

駄作

今井杏太郎の言う「駄作も必要」の意味が、異なる角度から見えてきた。「つぶやけば短歌」を実践する凡人である以上、駄作ばかりである。以前数えてみたら納得できる歌は1割ほどだった。しかも自分の場合、花鳥詠しか興味がないので、毎日、自然ばかりを詠…

拓次の文語詩・口語詩

『大手拓次詩集』は、散文詩を含めたほとんどが口語詩なのだが、終盤に少し文語詩が載る。口語詩を読み終えた後に文語詩を読むと、また味わいが異なる。染み入ってくる。感覚として自分には、文語詩のほうが鋭く深く、染み入ってくる。たぶん、文語の語感を…

枕詞

高校古文の参考書『古文研究法』に、枕詞の解説の後、次のようにあった。 …どうせ意味に関係ないのだから、わざわざ使わなくてもよいような感じがするかもしれないけれど、枕詞をうまく使うと、理屈ぬきに美しい「しらべ」が生まれる。 「理屈ぬきの美しいし…

真名と仮名

男の子だからと弟は真名、女の子だからとわたしと妹は仮名、にて命名された。歌の歴史を紐解けば、この命名は、男性のたしなむ漢籍に対して女性の遊ぶくずし字という発想の下にあったことが分かるわけで、昨今のジェンダー論争でやり玉にあげられそうなテー…

比喩

結社に入社したての頃。歌会で比喩について「直喩は避けよ、隠喩を用いよ」と徹底された。この指導者のひとつの方針だったが、これが今も体に染みついてしまい、「~やうな、やうに」「~のごと、ごとく」などわたしは直喩が使えない。 作歌するときに言葉を…

歌物語

物語に歌が挿入してあるだけで、ストーリーに濃淡が表れ、ぐっと深さが生まれると感じる。『西行花伝』には折々に三十一字が置かれており、歌の持つ力がたたえられている。 心酔したのは十三帖。吉野から綴った桜についての西行の書簡の箇所である。美しい文…

日本語が痩せていくとは

言葉は、時代の移り変わりとともに変遷する。古語が失われて新語が登場することは歴史の繰り返しだろう。ただ、情報革命というパラダイムシフトに置かれた現代は、かつてないほどの大きな変遷を体験していると思う。今が過去と決定的に異なるのは、やはり情…

俳句べからず集

『俳句』は、俳句「べからず集」。形容詞・副詞を取り除き、名詞と動詞で詠む句を良しとする。秀句として飯田蛇笏の「くろがねの秋の風鈴鳴りにけり」を挙げる。 観念的なこちら側の言葉(抽象名詞、抽象動詞)ではなく、具体的なあちら側の言葉(具象名詞、…

特に動詞

同じ定型短詩として俳句から学ぶことは多い。現代俳句協会のサイトにて読んだ「切れ、動詞、オノマトペ」の考察が興味深かった。 切れ。上から下へと流れる叙情が歌の命でもあるので、自分はなるべく持たせないように心がけている。連作の際、例外はもちろん…

枕草子の描写表現

風巻景次郎は『中世の文学伝統』において枕草子の描写における「絵画的特色の粋」に触れ、「日本の歴史の上で未だあらわれたことのないものであった」と指摘している。例として最初に挙げているのは、「木の花は」の 34 段。 五月ついたちなどの頃ほひ、橘の…

文語と口語

口語短歌花盛りのコミュニティにあり、未来の三十一文字の姿を示してもらっている気持ちになる。現代において直情を発露するには、会話的口語表現はもっとも強い言葉の力を持つ。ただ巧く定型にはまる場合はいいのだが、はまらない場合には一瞬にして歌では…

旧仮名と新仮名

歌には旧仮名遣いを用いる。昔の時間とつながることができ心地良いことが理由。「詞は古く、心は新しく」の教えにも沿う。 けれど、ときどき、古さと新しさの混在に居心地の悪さを感じることもある。先日迷った「赤ずきん」と「赤づきん」。幼少時、絵本の扉…

晒すということ

「歌ぐらい、自分の言いたいことを詠んでいい」。これはよく祖母が言っていたことだ。裏を返せば、現実社会では言いたいことも言えず鬱屈した気持ちがどこかにこもっているから、歌には真実を詠み込めということだろう。それが歌本来の姿なのだから。 問一、…

道のはじまり

日本中世に誕生した「道」の理念は、日本の精神文化の屋台骨となる。歌合が遊びから勝負へと変わり、真剣な作歌姿勢が家の存続にまで影響を及ぼした背景は、同時代の欧州文学周辺から仰視すると、高度な文化社会だと称賛せずにはいられない。 道とは何か。わ…

本歌取り

表現論として本歌取り論をまとめたのは、藤原定家だという。『日本の文学論』に定家「詠歌大概」による本歌取りの考え方が紹介されている。 歌を詠む者は堪能の先人の秀歌を専ら手本とすべきで、取り入れる古歌の歌詞は、三代集(古今・後撰・拾遺和歌集)に…

枕の文体―「など」の考察

枕草子の文体と敬語について『清水好子論文集〈第3巻〉王朝の文学』44 典型創造の意図―枕草子の文体・敬語論―から前半を閲読する。 前半で、著者は枕に頻出する「など」という接尾語に着目する。短編のひとこまを想起させる鮮やかな描写場面で「など」が頻り…

三多

短歌投稿サイト「うたよみん」に参加して、「三多」の実践が容易になった。三多とは大辞林によると「文章の上達に必要な三つの条件。すなわち、文章を多く読むこと(看多)、多く書くこと(做多=さた)、多く推敲すること(商量多)」。これは何も文章に限…

言語の形態的類型

言語の形態的類型を、大辞林から4つ示す。 膠着語=言語の形態的類型による分類の一。実質的な意味をもつ単語あるいは語幹に、文法的な機能を持つ要素が次々と結合することによって、文中における文法的な役割や関係の差異を示す言語。朝鮮語、トルコ語、日…

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