あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

俳句べからず集

 『俳句』は、俳句「べからず集」。形容詞・副詞を取り除き、名詞と動詞で詠む句を良しとする。秀句として飯田蛇笏の「くろがねの秋の風鈴鳴りにけり」を挙げる。

 観念的なこちら側の言葉(抽象名詞、抽象動詞)ではなく、具体的なあちら側の言葉(具象名詞、具象動詞)を使い、まざまざと景を描けと著者は説く。観念露出の病弊を批判し、豊富な句群を例示しながら、観念語乱用、観念的ひねり、理屈・主観・感情の露出、でっち上げ、ひねくり小細工を指摘しつつ作品を斬ってゆく。「自分の場合、観念ばかりではないか…」と居心地が悪くなった。そこで、十七音と三十一音の差異は明らかだが、こちら側の言葉として避けるべき観念語を備忘録として以下に記す。

  • 名詞…命、生涯、人生、半生、一生、一世、終世、宿命、運命、流転、世、生活・たつき、永遠、永久、無限、底、遠く果て、限り、自己、自我、自己嫌悪、自意識過剰、、妬心、傷心、意識、意思、意志、思惟、思索、思ひ想ひ、妄想、懊悩、苦闘、自虐、自嘲、疑心、忘却、悶悩、失望、必死、配信、鬱憤、不逞、焦燥、懐疑、思念、沈思、想念、瞑想、意慾、理想、理性、嫉妬、心理、理知、学識、現実、真実、矛盾、衝動、個性、習性、盲点、惰性、官能、脳裏、感情、直感、感覚、純愛、好き、片恋、恋、幸せ、小さき幸、倖、多感、思慕、慕情、愛憎、情熱、薄幸、追憶、情緒、情炎、夢幻、愛情、哀歓、愛、欲、屈辱、知覚、虚飾、美貌、秘密、失恋、虚空、空虚、虚無、虚偽、うつろ、ひとり孤独、感傷、孤影、孤愁、記憶思ひ出、憂愁、憂い、哀愁、郷愁、旅愁、離愁、愁嘆、春愁、性、死、葬、逝く、喪、、詩情、詩心、詩人、詩集、美、曲線美、○○感、充実感、美感、解放感、劣等感、不吉感、重量感、恍惚感、孤独感、距離感、肉感、力、、量、情、味、姿
  • 動詞…生く、住む、思ふ、知る、意識す、信ずる、秘む、恋ふ、愛す、化す、(以下、感情を伴う)憑く、昂る、挑む、抗ふ、切る、尽くす、佇つ、極む
  • その他…それぞれとりどりさまざま、つぎつぎ、~もの、~ところ
  • 形容詞・副詞全般…寂し、淋し、哀し、恋し、儚し、侘し、悩まし、楽し、巧し、心地よし…ひそとしばしなほふと

 あからさまに色を対照させているとして、色彩の句も批判の対象に挙げられていた。色の場合、自歌からは引き離せない。しかしながら使用については敏感になろうと思った。

 使用頻度の高い語に下線を引いた。孤独、追憶など独りよがりな熟語の使用を避けたいと思いつつ、結局使用して陳腐な表現に陥っていた自歌への反省と今後へのヒントが示されたかもしれない。言語感覚を洗いなおすきっかけになりそうだ。

 ところで、巻末の解説「日本人の発想の根をあばく」によると、本書のもつ性格をはじめて指摘したのは谷沢永一だったという。エッセイ「紋切り型を衝く鮮烈な日本語論」の中で以下のように取り上げた。

本書はフロベールの有名な『紋切り型辞典』の始めて出来た日本版、日本人の誰も誰もが無意識のうちに陥る月並み表現の恐るべき均一性を、最も具体的にあばきたてる事に成功した稀代の名著であり、日本語論および日本人論をめぐる第一級の文献となっている。

としている。このべからず集は初心俳句十五万句を調べて洗い出した所見集だけに、「日本語論および日本人論」とは説得力のある指摘だと感じた。

 型から出る。されど、型も知る。今のところ、自分はこのような感じか。いや、型の放棄はしたくない。よって、型から出られずにいる。

俳句

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