あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

後撰集における「露」

 定子の辞世歌を意識しながら、後撰集における「露」の歌を拾う。恋歌で知られる後撰集は九十四首。

定子の辞世歌の一首

煙とも雲ともならぬ身なりとも草葉の露をそれとながめよ

つねもなき夏の草葉にをく露を命とたのむ蝉のはかなさ 一九三

今夜かくなかむる袖の露けきは月の霜をや秋とみつらん 二一四

露かけし袂ほすまもなき物をなと秋風のまたき吹らん 二二二

彦星のまれにあふ夜のとこ夏は打はらへども露けかりけり 二三〇

天河ながれて恋ふる七夕の涙なるらし秋のしら露 二四二

風さむみなく松虫の涙こそ草は色とる露とをくらし 二六三

草のいとにぬく白玉とみえつるは秋のむすへる露にそ有ける 二七〇

秋の野の露にをかるゝ女郎花はらふ人なみぬれつゝやふる 二七五

五月雨にぬれにし袖にいとゝしく露をきそふる秋のわひしさ 二七七

おほ方も秋は侘しき時なれと露けかるらん袖をしそ思 二七八

白露のかはるもなにかおしからんありての後もやゝうき物を 二七九

うへたてゝ君かしめゆふ花なれは玉とみえてや露もをくらん 二八〇

おりてみる袖さへぬるゝ女郎花露けき物と今やしるらん 二八一

万よにかゝらん露を女郎花なにおもふとかまたきぬるらん 二八二

万よにかゝらん露を女郎花なにおもふとかまたきぬるらん 二八三

今はゝや打とけぬへき白露の心をくまてよをやへにける 二八四

白露のうへはつれなくおきゐつゝ萩の下はの色をこそみれ 二八五

人はいさことそともなきなかめにそ我は露けき秋もしらるゝ 二八七

秋のよをいたつらにのみおきあかす露は我身のうへにそありける 二九〇

おほかたにをく白露もいまよりは心してこそみるへかりけれ 二九一

露ならぬ我身をおもへと秋の夜をかくこそあかせおきゐなからに 二九二

しら露のおくにあまたの声すれは花のいろ++ありとしら南 二九三

白露のをかまくおしき秋はきを折てはさらに我やかさゝん 三〇〇

秋の田のかりほのいほのとまをあらみわか衣ては露にぬれつゝ 三〇二

我袖に露そをくなる天河雲のしからみなみやこすらん 三〇三

秋萩の枝もとをゝになり行はしら露をもくをけは成けり 三〇四

わかやとの尾花がうへの白露をけたずて玉にぬく物にもか 三〇五

さを鹿の立ならすをのゝ秋萩にをける白露我もけぬへし 三〇六

秋の野の草はいとゝもみえなくにをく白露を玉とぬくらん 三〇七

白露に風の吹しく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞちりける 三〇八

秋のゝにをく白露をけさみれは玉やしけるとおとろかれつゝ 三〇九

をくからに千草の色になる物をしら露とのみ人のいふらん 三一〇

白玉の秋のこのはにやとれるとみゆるは露のはかるなりけり 三一一

秋の野にをく白露のきえざらば玉にぬきてもかけてみてまし 三一二

から衣袖くつるまてをく露はわか身を秋の野とや見るらん 三一三

大空にわか袖ひとつあらなくにかなしく露やわきてをくらん 三一四

朝ごとにをく露袖にうけためて世のうき時の涙にぞかる 三一五

秋の野の草もわけぬをわか袖の物思ふなへに露けかるらん 三一六

ぬきとむる秋しなけれは白露の千種にをける玉もかひなし 三三五

秋の野のにしきのこともみゆる哉色なき露はそめしと思ふに 三六九

あきのゝにいかなる露のをきつめはちゝの草はの色かはるらん 三七〇

かり鳴てさむきあしたの露ならし立田の山をもみたすものは 三七七

をそく疾くいろつく山のもみちはゝをくれさきたつ露や置らん 三八一

数しらず君かよはひをのばへつゝ名だゝる宿の露とならなん 三九四

露たにも名だゝる宿の菊ならば花のあるじやいくよなるらん 三九五

菊のうへにをきゐるべくはあらなくに千とせの身をも露になす哉 三九六

我ことく物思ひけらし白露のよをいたつらにおきあかしつゝ 四二四

秋深みよそにのみきく白露のたかことのはにかゝるなるらん 四二五

いたつらに露にをかるゝ花かとて心もしらぬ人やおりけん 四三一

みな人におられにけりと菊の花君かためにそ露はをきける 四三六

夕暮は松にもかゝるしら露のをくるあしたやきえははつらん 五一二

光まつ露に心をゝける身は消かへりつゝよをそうらむる 五二八

行やらぬ夢ちにまとふたもとには天つ空なき露そをきける 五六〇

かくこふる物としりせはよるはをきて明れは消る露ならましを 五八二

ともかくもいふことのはのみえぬかないつらは露のかゝりところは 六一〇

かゝりける人の心をしら露のをけるものともたのみけるかな 六一四

我ことや君もこふらん白露のおきてもねても袖そかはかぬ 六二七

侘わたる我身は露をおなしくは君かかきねの草にきえなん 六五〇

をく露のかゝる物とはおもへともかれせぬ物はなてしこの花 六九九

恋しきに消かへりつゝ朝露のけさはをきゐん心ちこそせね 七二一

しのゝめにあかて別し袂をそ露やわけしと人やとかむる 七二二

あふさかの木の下露にぬれしよりわか衣ては今もかはかす 七二四

ゆめちにもやとかす人のあらませはねさめに露ははらはさらまし 七七一

涙川なかすねさめもある物をはらふはかりの露やなになり 七七二

白露のおきてあひみぬ事よりはきぬかへしつゝねなんとそ思 八二七

暁のなからましかはしら露のおきてわひしき別せましや 八六三

おきて行人の心を白露の我こそまつはおもひきえぬれ 八六四

つらしとやいひはてゝまし白露の人に心はをかしとおもふを 八九四

なからへは人の心もみるへきに露の命そかなしかりける 八九五

つねよりもおきうかりける暁は露さへかゝる物にそありける 九一四

今まても消てありつる露の身はをくへきやとのあれは成けり 九二三

言のはもみな霜かれに成行は露のやとりもあらしとそ思ふ 九二四

いさや又人の心も白露のおくにもとにも袖のみそひつ 九六五

露はかりぬるらん袖のかはかぬは君かおもひのほとやすくなき 九七五

露の命いつともしらぬよの中になとかつらしと思ひをかるゝ 一〇〇九

なくさむる言のはにたにかゝらすは今もけぬへき露の命を 一〇三二

あさことに露はをけとも人こふるわか言のはゝ色もかはらす 一〇四五

ことしけししはしはたてれよひのまにをけらん露は出てはらはん 一〇八一

我のみは立もかへらぬ暁にわきてもをけるそての露かな 一〇九五

ことのはにたえせぬ露はをくらんやむかしおほゆるまとゐしたれは 一〇九八

わかのりし事をうしとや消にけん草はにかゝる露のいのちは 一一三一

なからへは人の心もみるへきを露のいのちそかなしかりける 一二四八

人心たとへてみれはしら露のきゆるまもなをひさしかりけり 一二六四

我ならぬ草はも物はおもひけりそてより外にをける白露 一二八二

うたゝねのとこにとまれる白玉は君かをきつる露にやあるらん 一二八五

かひもなき草の枕にをく露のなにゝ消なておちとまるらん 一二八六

たとへくる露とひとしき身にしあれは我思ひにも消んとやする 一二九五

打すてゝ君しいなはの露の身はきえぬはかりそありとたのむな 一三一一

いかて猶かさとり山に身をなして露けきたひにそはんとそ思 一三二六

山里の草はの露はしけからんみのしろ衣ぬはすともきよ 一三五五

草枕ゆふてはかりはなになれや露も涙もをきかへりつゝ 一三六七

諸ともになきゐし秋の露はかりかゝらん物と思ひかけきや 一四〇九

世中のかなしき事をきくのうへにをく白露そ涙なりける 一四一〇

きくにたに露けかるらん人のよをめにみし袖を思ひやらなん 一四一一

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