あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

古今集における「露」

 定子の辞世歌を意識しながら、古今集における「露」の歌を拾う。古今集では長歌一首を含め計四十七首。

定子の辞世歌の一首

煙とも雲ともならぬ身なりとも草葉の露をそれとながめよ

あさ緑いとよりかけて白露を玉にもぬける春の柳か 二七

はちす葉のにごりにしまぬ心もてなにかは露を玉とあさむく 一六五

ひとり寝るとこは草葉にあらねとも秋来る宵はけかりけり 一八八

秋の夜は露こそことにから寒からし草むらごとに虫のわぶれは 一九九

いとはやも鳴きぬる雁か白露の色とる木々も紅葉あへなくに 二〇九

鳴わたる雁の涙やおちつらん物思ふやとの萩の上の露 二二一

萩の露玉にぬかんととれはけぬよしみむ人は枝なからみよ 二二二

おりてみはおちそしぬへき秋萩の枝もたわゝにをける白露 二二三

萩か花ちるらんをのゝ露しもにぬれてをゆかんさよはふくとも 二二四

秋の野にをく白露は玉なれやつらぬきかくるくものいとすち 二二五

月草に衣はすらんあさ露にぬれての後はうつろひぬとも 二四七

白露の色はひとつをいかにして秋の木のはをちゝにそむらん 二五七

秋の夜の露をはつゆとをきなからかりの涙やのへをそむらむ 二五八

秋の露色++ことにをけはこそ山の木のはのちくさなるらめ 二五九

しら露も時雨もいたくもる山は下葉残らす色付にけり 二六〇

雨ふれと露ももらしをかさとりの山はいかてかもみちそめ剣 二六一

露なからおりてかさゝ菊の花おいせぬ秋のひさしかるへく 二七〇

ぬれてほす山路の菊の露のまにいつか千年を我はへにけん 二七三

霜のたて露のぬきこそよはからし山の錦のをれはかつちる 二九一

山田もる秋のかりいほにをく露はいなおほせとりの涙成けり 三〇六

ほにも出ぬ山田をもるとふち衣いなはの露にぬれぬ日はなし 三〇七

けふわかれあすはあふみと思へともよやふけぬらん袖の露けき 三六九

から衣たつ日はきかし朝露のおきてしゆけはけぬへき物を 三七五

白露を玉にぬくとやさゝかにの花にも葉にもいとをみなへし 四三七

あきちかうのは成にけり白露のをける草はも色かはりゆく 四四〇

うちつけにこしとや花の色をみんをく白露のそむるはかりを 四四四

うちつけにこしとや花の色をみんをく白露のそむるはかりを 四五〇

命とて露をたのむにかたけれは物わひしらに鳴のへの虫 四五一

音にのみきくの白露よるはおきてひるは思ひにあへすけぬへし 四七〇

つれもなき人をやねたく白露のおくとはなけきぬとは忍はん 四八六

夕されはいとゝひかたき我袖に秋の露さへをきそはりつゝ 五四五

夢路にも露や置らんよもすからかよへる袖のひちてかはかぬ 五七四

露ならぬ心を花にをきそめて風吹ことに物思ひそつく 五八九

いのちやはなにそは露のあた物をあふにしかへは惜からなくに 六一五

郭公夢かうつゝか朝露のおきてわかれし暁の声 六四一

宮きのゝもとあらのこ萩露をゝもみ風を待こと君をこそまて 六九四

秋ならてをく白露はねさめするわか手枕のしつく成けり 七五七

朝露のおくての山田かりそめにうき世中を思ひぬる哉 八四二

露をなとあたなる物と思ひけん我身も草にをかぬはかりを 八六〇

我うへに露そをくなる天川とわたる船のかひのしつくか 八六三

あはれてふ言の葉ことにをく露は昔をこふる涙成けり 九四〇

(長歌 一〇〇一)

をみなへしなきなやたちし白露をぬれきぬにのみきてわたるらん 一一四七

わかのりし事をうしとやおもひけむ草葉にかゝるの命を 一一五九

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