あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

敗者の文学

 ここまで論文読書を重ねて見えてきた事実は、『源氏物語』は勝者の文学であり、『枕草子』は敗者の文学という視座である。藤原四兄弟で、定子の父である長男道隆(中関白家)が病没し、彰子の父である末弟道長(御堂関白家)が権力を手中に収めた政治的背景が、両作品の後の千年に多大な影響を及ぼした。飯島裕三氏曰く「中関白家が中央政界でその権威を失墜し定子が崩御した時には『枕草子』の存在価値は著しく下落したものと思われる」。そして、この史実が「安易な本文改ざんを許すこと」へとつながった。

 ウェブに「勝者は歴史を作り、敗者は文学を作る」との言句を見かけたが、『源氏物語』は二百年後の鎌倉時代、中世歌壇に重視されたことで、その後、不朽の物語へと発展を遂げた。改ざんの多かった『枕草子』は当時ですら正しく理解されていなかったのだろう。しかしながら(何度も書いてしまうが)『枕草子』がなければ『源氏物語』は生まれなかったわけで、現在、『枕草子』研究が進み能因本を中心に新たな解釈の流れが起こりつつあることは日本的美意識、精神文化のルーツを探る上で喜ばしい。

 『枕草子』研究は今、能因本を基点として転換期にある。本文解釈には和歌の正確な読解が不可欠であり、自分も関連和歌の解釈に心血を注ぎ、詠歌への足掛かりとしたい。三代集、白氏文集、『伊勢物語』も不可欠となる。

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