あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

枕の文体―「など」の考察

 枕草子の文体と敬語について『清水好子論文集〈第3巻〉王朝の文学』44 典型創造の意図―枕草子の文体・敬語論―から前半を閲読する。

 前半で、著者は枕に頻出する「など」という接尾語に着目する。短編のひとこまを想起させる鮮やかな描写場面で「など」が頻りに使用されることについて、清少納言はよく見られた王朝貴族生活のひとこまを例示することで「一般化」して記録したと叙説する。記録するに足ると判断した定子後宮の動静を日記的章段として実名を用いて克明に記し、一方で固有名詞のない一般化された範例として例話を記したというのである。これは、結果的に対照を際立たせた。

など 等(副助)

「なにと」の転である「なんど」から。中古以降の語。発生期から「なんど」の形も用いられ、近世以降「なぞ」「なんぞ」「なんか」も用いられた。

  1. 多くの事柄の中から、主なものを取りあげて「たとえば」の気持ちを込めて例示する。多くの場合、他に同種類のものがあることを言外に含めて言う。「…や…や…など」の形で総括することもある。
  2. ある事物を特に取りあげて例示する。(軽んじて扱う場合。叙述を弱めやわらげる場合。この場合には例示の気持ちはあまりない。文語文や古文に多く見られる用法。)
  3. 引用文を受けて、大体このようなことを、の意を表す。現代語では「などと」の形で用いることが多い。語源が「なにと」であるために、古くは引用文を受ける場合にも格助詞「と」の付かないのが普通であったが、語源意識が薄れるに従って「と」が付くようにもなった。 (大辞林)

 「など」の例示による叙述の一般化は、同時に叙述を弱めてやわらげることにもつながる。これにより、作品全体の景色を振り返るとき、さらに強弱が明確になり、たとえば、時代は下がるが、あきらかに連歌でいう「地文を置く」ような状態になる。定子後宮の史実を述べた「文」の部分を、一般化された叙述である「地」の部分を持つことによって、より印象的に伝える効果的な方法である。わたしも連作の際に見習いたい表現手法だ。

 清少納言は自らの価値判断でこの実録と一般化の書き分けを決め、日記的章段だけでなく、類聚的章段(~は、~ものの章段)、随想的章段にも貫いたという。書くことと書かないことをどう叙述するか、つねに天秤にかけていたのだ。

 叙述内容に強弱を付け、「弱」の部分となった枕草子の典型について、次の指摘が興味深い。「すでに典型化されたものの叙述にはあたかも和歌に敬語がつかぬように、敬語が外されるのを原則とする」。ここは要学習。

 そして結語にはいつも唸らせられる。「ともあれ、枕草子の基本的な執筆態度が典型を創造して記録するというのであれば、作者がそれらを位置づけ評価する基準は当然『をかし』であって『あはれ』ではない。なぜかというと、『あはれ』とは具体的な一回限りの自己に即した問題に没入するときに働く情緒だからである」。

 本書の帯には「比類のない発想・着想と問題意識の鋭さ」とあるのだが、頷かずにはいられない的を射た形容だと思った。

清水好子論文集〈第3巻〉王朝の文学

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