あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

歌物語

 物語に歌が挿入してあるだけで、ストーリーに濃淡が表れ、ぐっと深さが生まれると感じる。『西行花伝』には折々に三十一字が置かれており、歌の持つ力がたたえられている。

 心酔したのは十三帖。吉野から綴った桜についての西行の書簡の箇所である。美しい文章に出会うと音読したくなるのだけれど、ここを声にして読みながら吉野の桜を想起した。遠い昔、吉野の桜吹雪に渦巻かれたことがあり、その夢のような春の日を思った。

西行花伝

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