あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

三巻本と能因本

 『枕草子』の全貌を追う中でどの底本を用いるか的確な提案をいただいた。深謝。

 現在多くの『枕草子』は三巻本を底本とする。藤原定家が書写したと憶測されているもので、その分、校訂がしっかりなされているらしい。能因本を底本とした北村季吟の『春曙抄』も三巻本の影響を受けており、本流の能因本とはかなり印象が異なるとのことだった。そこで推薦していただいた一冊が笠間書院の『枕草子[能因本]』である。

 時代を経て写本を繰り返す中、手を入れたくなる人間の思惟で勝手に書き換えられることは想像にたやすい。定家など彼ならではの知力でどんどん修正を加えたのではないか。もっとも分かりやすい底本として後世に遺された三巻本の意義は大きいが、史実として四冊のうち一体どの底本が最も原本に近いのだろう。そう考えると能因本は、能因自身が清少納言の親族でもあることから彼女の意思を汲んでおり、もっとも原本らしいのかもしれないと感じたりする。期待大。

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