あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

雪に始まり、雪に終わる

 枕草子は雪に始まり、雪に終わる―。

 先行研究の「雪」を踏まえた赤間氏の論考を読み、「雪」に象徴される定子後宮への追憶は「雪に始まり、雪に終わる」印象を抱いた。枕草子は雪の白を纏っている。

 清少納言の追憶において、中宮定子への想いの高ぶる日はいつも雪景色に包まれていた。定子後宮への初出仕の日と、定子崩御の日と。

 初出仕の日、第一印象から焼き付いた定子後宮と雪の属性は清少納言をすっぽりと包み込む。宮廷にとり一年でもっともおめでたい時季が雪の季節に重なる事実も後宮描写の際の特徴になるかもしれない。このような背景があれば、平安王朝美の王道をゆく古今集の春秋の美に従わなかったことも自然だったと言えよう。白い雪があったからこそ、後宮の光景は目も覚める輪郭を持ち、くっきりと浮かび上がったと思う。

 「雪」は『枕草子』を貫く描写の核を創出した。目にしたことを「絵画的」な手法で蘇らせることができた理由には、「雪」の存在もあったと考える。

 故清水好子氏が指摘されたように『源氏物語』が『枕草子』から多くの素材を利用している以上、『源氏物語』が中世和歌に影響を与えた日本的象徴のルーツは『枕草子』まで遡ることになる。

象徴詩歌のルーツを探る 枕草子の存在 - あけほのむらさき

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