あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

シェークスピアのソネット

 シェークスピアの十四行詩(ソネット)は、ロンドンがペストに襲われた時期(1609年)に出版された。

 ソネットの発祥は、イタリア・ルネサンス期。従来ロマンス言語においてその音韻効果を発揮していたが、これが英語にはなじまないことからシェークスピアは母国語の生きる形式で創作にいそしんだ。歌われた内容は熱愛する女性ダーク・レディへの詩編、美青年への同性愛の詩編など。すでに早くから書き始めていたが、疫の時代に劇場が封鎖され収入が途絶えたこともあり刊行に至ったらしい。

 ラテン語から英語へ。シェークスピアは青少年期にラテン語を学んでいる。両言語の特徴を把握しつつ、英語の音韻を生かしたソネット創作はさぞかし満ち足りていたことだろう。感覚として、他国の文化をまとった詩形を自国語に馴染ませる作業は、単にアレンジのような「何か」であったのだろうか。

 シェークスピアに思いを巡らすとき、同時に清少納言や紫式部、近いところでは夏目漱石を連想する。みな古典を拠りどころとして自らの言葉に喚起させた。彼らを思うとき、いつも古典の力に圧倒される。

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