あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

平安人の心で『源氏物語』を読む

 平安時代の文化、習慣、風俗を知り、平安人が味わったように『源氏物語』を繙いてみよう―。そう語りかけながら平安社会を様々な角度からとらえた『平安人の心で「源氏物語」を読む』は、あらすじ収録の各帖ごと当時を紹介するテーマを定め、現代人を往時へと誘う。先日記した歌のあんちょこ『古今和歌六帖』の存在も、本書により知った。

 先行研究を基に各テーマの執筆を進めたという著者は、「桐壺」巻を紹介する冒頭で自身の論を直接に打ち出した。

実在のきさき・中宮定子と『源氏物語』「桐壺」巻のヒロイン・桐壺更衣の関係についてが、それである。定子は実家の没落によって権威を失いつつも一条天皇と純愛で結ばれ、その逸脱を良しとしない貴族社会から批判を浴びるなか、若くして死んだ。彼女の悲劇的な人生が一つの社会的事件として時代の記憶を形成していたということ、桐壺更衣の物語はそれに基づくということが、私の持論であり、長く主張していきたいと考えているところだ。

 だが圧巻は、最終章「番外編五 中宮定子をヒロインモデルにした意味」の展開である。

しかしおそらく、『源氏物語』にとって定子は「桐壺更衣のモデル」と言って終わるような表層的な存在ではない。私は、定子こそが『源氏物語』の原点であり、主題であったと考えている。定子の悲劇的な人生が時代に突きつけた問いを正面から受け止め、虚構世界の中で、全編をもって答えようとした。それが『源氏物語』だと考えるのだ。

 定子こそが『源氏物語』の原点であり、主題であった―。ここは繰り返し唱えたくなる。社会的事件となった中宮定子の生死が『源氏物語』の原点、主題であることにより、和歌にかかわる謎が解け、腑に落ちるからだ。今後、少しずつ個人的にその検証を行い、記していきたい。

平安人の心で「源氏物語」を読む 

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