あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

『枕草子』と『源氏物語』における『白氏文集』—感傷詩を中心に―

 『白氏文集』に関連深い『枕草子』と『源氏物語』は中国語の母語話者に考察してもらうことが最適解である。張培華氏は「『枕草子』と『源氏物語』における『白氏文集』—感傷詩を中心に―」において、『白氏文集』の四分類、すなわち諷諭、閑適、感傷、雑律詩の構成を指標として、『枕草子』と『源氏物語』に引かれる『白氏文集』の詩句がどの部位に属すのか調べ、引用箇所を総覧として分析した。

 引用は『枕草子』が二十四箇所、『源氏物語』が五十九箇所。さらに『枕草子』は感傷詩の引用数が『源氏物語』より多い。また感傷詩に分類される「長恨歌」は『枕草子』では一箇所引かれるのに対し、『源氏物語』では十二箇所あり圧倒的に多かった。

 「さらに清少納言は『枕草子』の中で、意識的に感傷詩の表現を借りて、父藤原道隆を失った定子の悲境を表し、定子自身も自ら感傷詩を念頭に置く詠歌を行っていた」という。『枕草子』の感傷詩の多さは、そこが理由といえる。

 冒頭「春はあけぼの」で『白氏文集』引用がいきなり三箇所(春、秋、冬)もあった。夏だけ引かれていないことがまた面白い。異なる情景もあるが、引用とはそういうものなのだろう。

 以下、『枕草子』第一段における『白氏文集』引用箇所。これはもうビギナーズ版ではなく岩波で上下購入しなければいけない。

  • 巻三十一雑律

早春憶蘇州

呉苑四時風景好

就中偏好是春天

霞光曙後殷於火

水色晴來嫩似煙

  • 巻二十六雑律

秋思

夕照紅於燒

晴空碧勝藍

獸形雲不一

弓勢月初三

雁思來天北

砧愁満水南

蕭條秋氣味

未老已深諳

  • 巻十感傷

送兄弟迴雪夜

夜長火消盡

歳暮雨凝結

寂寞滿爐灰

飄零上階雪

對雪畫寒灰

殘燈明復滅

灰死如我心

雪白如我髪

 とにかく日本の研究者にとりこの上なくありがたい内容の研究だと感じた。同時に現代中国文化圏において『枕草子』や『源氏物語』がどのように享受されているのか興味が湧いた。

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