あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

詩人大手拓次

 SNS時代、最高の出会いとして挙げた今井杏太郎「魚座」俳門に、新しく詩人大手拓次を加えたい。フランス象徴詩を学ぶ上で追いかけたいと感じていた詩人はランボー、そしてその翻訳で知られる西条八十だった。だが、大手拓次とボードレールに出会い、彼らこそが起点であることを知る。

 大手拓次詩集の語彙には、ぞくぞくする。この鮮やかで深い象徴詩こそ今後、何らかの形で自分の歌に生かしていきたいし、結社内歌友に知ってもらいたいとも感じた。

 以下、ボードレールを敬愛した拓次の姿が垣間見える詩。『大手拓次詩集』原子朗編(岩波文庫)より

「悪の華」の詩人へ Ⅱ

ボオドレエルよ、

わたしは Emile de Roy のかいたおまへの画をみてはあこがれてゐた。

白茶色のかりとぢの Les fleurs du mal をかたときもはなしたことはない。

さうして酒のみが酒をのむやうに、

また男がうつくしい女のからだをだくやうに、

おまへの思想をむさぼりくつてゐる。

はてはつれづれのあまりに、

紙のにほひをかぎしめて思ひをやり、

ひとつひとつ活字の星からでる光りをあぢはふ。

夜ねむるとき Les fleurs du mal はわたしの枕べにあり、

ひるは香炉のやうに机のすみにおかれてある。

旅するとき Les fleurs du mal と字引とはいつもわたしのふところにはいつてゐる。

 "Les fleurs du mal"「悪の華」とは、フランスの詩人ボードレール ( Charles Pierre Baudelaire ) が象徴派への道を開いた詩集。感覚の照応、悪にひそむ美、自意識の苦悩を描いて前人未踏の深さを示す。(大辞林)

  俯瞰すると、「魚座」俳門とフランス象徴派とは、全方位どこからどうみても融合しない系統なのだが、魅せられてしまっているのだから仕方ない…。この二派を道標とする。それにしても、軽くて深む、とは。難問。

©akehonomurasaki