ただの紙のいと白うきよげなるに
気持ちの整理をして背筋を伸ばすとき、清少納言のことばを想起する。「御前にて人々とも…」の段。世辞が腹立たしく心が晴れない、生きることに嫌気がさしどこかに行ってしまいたい、と彼女が落ち込んでいるときに。
ただの紙のいと白うきよげなるに、よき筆、白き色紙、陸奥紙など、得つれば、こよなうなぐさみて、さはれ、かくしてしばしも生きてありぬべかんめり、となむおぼゆる。
「普通の紙の真っ白できれいなのに、上等の筆、白い色紙、陸奥紙などが手に入ると、この上なく気が晴れ晴れとして、とにかく、こうしてしばらく生きていこうと思われるのです」
白という色の清清しさ。筆の柔らかさ、柄の手触り、そして紙の穏やかさ。その一こまから墨の気高い香りもほのかに立ち上ってくる。何よりも、真っ白な気持ちの心地よさである。白という色の魅力をあらためて確かめる。
千歳の昔から伝わる白の魅力に包まれながら、最初の言葉を記した。