あけほのむらさき

花も鳥もこころの旅にいく昔いくうつりして春はあけほの

現代の平淡美

 最初に購入した個人歌集は…という問いに対する答えは、西行か。

 現代ものには全く興味が湧かなかった。心に響かない。果たしてこれが千年後まで残る言葉なのか、などと余計なことが頭を過る。好みの歌が数点あったとしても、総体として自分の感性に合わない。一人称が合わない。表層のみに踊らされた事物が出てくるだけで、肌に合わないのだから仕方がない。

 だが、SNSのおかげで、師匠として仰ぎたいと感じた詩歌人との出会いが今夏、ついに実現したのである。俳人集団オルガン所属の鴇田智哉氏。第一句集「こゑふたつ」から抜粋されていた作品に瞠目した。現代詩歌人の言葉に、ここまではっとさせられたのは初めての経験である。平淡な言葉を用いて、不思議な時空を生み出している。これはまさに自分が憧れ探究している世界だと感じた。濁った違和感がなく、心地よい。一語一句がしみ込んでくる。淡くて綺麗、面白くて不思議。対象をしっかり五感で受け止めているからだ。

 刺激的な言葉、破壊的な言葉、挑戦的な言葉、破れの多い言葉の組み合わせ、そんな動的な修辞にまみれる現代にあり、鴇田氏の言葉は真逆を行く。誠実で静的な方向に深まり普遍性を生み出している。自分の方向はこれを三十一文字で表現すること。そう確信できた。それは口で言うほどやさしいことでなく、至極難題なのだけれど。多分できない可能性の方が九割がたで、すでに諦めている感もある。それでも、とにかくぶれない目標が設定できたことは収穫だ。鴇田氏が俳味を確立した今井杏太郎門「魚座」の俳句も同時に学びたいと感じた。

 心の揺さぶられる出会いとして記しておきたかった。

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